紳士のための礼服ウンチク<モーニングコート編> 〜モーニングコート はもともとは農民の服だった!?〜

礼服の中で、もっとも格式が高いとされる昼の正礼装(正喪服)「モーニングコート」とは、一体どのような服なのでしょうか。自分が身に纏う礼服の特徴や歴史についての知識は、紳士としてぜひ知っておいてほしい大人ウンチクです。

1.形や生地の特徴

モーニングコートは、黒い一つボタンで、左右の前袖が腰から裾に向かって曲線的にカットされ、背面だけが長い形をしています。

慶事は、上衣の色は黒かグレーで、生地は元々はドスキンが主流でしたが、最近では軽量のタキシードクロスやカシミア混などが用いられています。 そして中には、ベストを着用します。色はグレーかアイボリー、シャンパンゴールドが一般的ですが、特に決まりはないため、自分なりのファッションを楽しみたい場合は、カラフルなものを選ぶことができます。 生地は、黒の場合のみ、上衣と合わせるのが一般的です。 ズボンは、黒とグレーの縞柄のスラックスと決まっています。

弔事には、上衣は黒のみ。素材はドスキンかタキシードクロスかカシミアといった重厚感ある素材で作られていています。ベストは、白衿(しろえり)なしの黒。スラックスも、慶事と同じ縞模様ですが、暗めの地味なものが一般的です。

その他、慶事と弔事では、アクセサリーやネクタイ、靴下の色などに違いがあります。

黒の上衣に地味なスラックのモーニングコートの場合、ベストやネクタイの色などを違えることで慶事と弔事の両方に使用できなくはないですが、慶事の場合は華やかさに欠けるため、別物として用意しておく方が良いでしょう。

2.誰がいつ着るもの?

慶事での主な着用シーンとしては、昼間に行われる結婚式や披露宴で、新郎や、新郎新婦の父親が着用します。また、日本では内閣組閣の時に政治家らが着用したり、入学式や卒業式の式典で校長先生が着用したりします。

弔事では、喪主・親近者や相当に親しい方・葬儀委員長が葬儀・告別式・お別れの会などで着用します。社長や会社に大きく貢献した人物の葬儀や偲ぶ会を会社が主体となって行う社葬の場合は、喪主・親族・葬儀委員長・会社代表者・役員などが着用します。その際は、胸元に統一された社名などの名札やリボンが飾られるのが一般的です。

3. 正礼装としてのモーニングコート3つの謎

モーニングコートは、私たちに身近な普段着やスーツに比べ、確かに素材や形に重厚感が感じられますが、なぜこのような形の服が出来たのでしょうか。また、もっとも格式が高い礼服(正礼装)とされたのには、どういった理由があるのでしょうか。

3-1 前袖の形の謎

モーニングコートの前身として、前裾も背中側の裾の長さと同じだった「フロックコート」というものがあります。これは、16世紀のドイツ地方の農民が着用していた作業着でしたが、徐々に上流市民の外出着として浸透していきます。

もちろん、農民と市民が全く同じものを着ていたのではなく、農民の着ていたフロックコートは機能面を重視していたのに対し、上流市民が着ていたフロックコートは、素材も上質なものでデザイン性が重視されて作られていた考えられています。

その後、上流市民は馬に乗る習慣があったため前裾が長いと邪魔になるとして、カットされます。こうして新しい服の形として誕生したのが「モーニングコート」です。 つまり、前袖の形には上流階級の人が着るものとしての格式の高さの表れです。

3-2「モーニング」という名前の由来

次に謎なのは、馬に乗るのに適した形に改造されたコートをなぜ「モーニングコート」と名付けたかです。この理由は単純で、上流市民や貴族が乗馬を楽しんだり、人を訪ねたりするのが朝方だったからだと言われています。

3-3正礼装である理由

残された謎はあと一つ。農民の作業着だった服が上流市民や貴族の昼用の外出着となったあと、いつから礼服、中でももっとも格式高い正礼装となったのでしょうか。

この答えは、紳士服の特徴にありました。
紳士服は、新しいものが誕生し流行ると、これまで着ていた服が新参者に比べ、1ランク上位な位置付けとされてきたそうです。
モーニングコートは、後に他の紳士服が出てきたことで、必然的に礼服の域に達し、同じように新しい服の誕生を繰り返すことで、もっとも格式の高い礼服としての地位に登りつめたということです。

つまり、モーニングコートが正礼装になったのは、形が独特だったとか、有名な皇帝に由来するものではなく、今世にまで残る礼服としてもっとも歴史の深い礼服だということです。

まとめ

モーニングコートに関する大人ウンチク、いかがでしたでしょうか。

単に着るだけでなく、着るものの意味や歴史を知って着用すると、よりそれらの礼服の格式高さに近づくことができます。
慶事の時には、ぜひ、朝から乗馬を楽しんでいた貴族の姿を想像し、優雅で気高い気持ちで、モーニングコートの袖に手を通してみませんか。きっと何も知らずに着用していた時よりも、気持ちが引き締まる思いがするのではないでしょうか。