礼装が求められる理由

結婚式には燕尾服やタキシード、葬儀には喪服をと、改まった場に出向く時には、その場に相応しいとされる礼装をしますが、あなたは、なぜ礼装しなければならないのかを考えたことがありますか。

礼服は、普段着と比べ窮屈な気心地ですし、準備や着た後のお手入れにも手間がかかります。そのため、本心では「めんどくさい」、「着る意味がわからない」と感じながらも、着なければならないものとして、機械的に着用している方が多いのではないでしょうか。

ここでは、「なぜ、礼装すべきなのか」を考えます。そこを知れば、今後礼装するときのあなたの心構えが、きっと前向きなものへと変わるのではないでしょうか。

身分制度のためだった礼装

礼装文化とは、冠婚葬祭といったイベント時に、それぞれの場に相応しいとされる服(礼服)を身に纏う事で、始まりは、今から約6000年前の古代文明頃まで遡ります。しかし当時と現在とでは、礼装することの意味は異なっていました。

身分制度があった当時、封建制度を絶対的なものとさせるため、身分の違いははっきりとわかるように、身分により着る服装を決め、その着用を義務付けたのが、礼装文化の始まりだったと考えられています。

つまり、もともと礼装文化とは、催事ごとの場面に応じて、定められた服(礼服)を着ることではなく、身分に応じて、定められた服装を着る文化だったということです。

相手への敬意を表す現代の礼装

それでは、全員平等、民主主義の近代化を迎え、身分制度が関係なくなった現在では、礼装は何のため、誰のためのものでしょうか。

現在の礼装は、非日常的な行事の「特別」さを引き立て、その場の主役や参列している周囲、あるいは儀式自体への敬意を示すためのものとされています。言葉なく自分の気持ちを表現できるという素晴らしい手段だということです。

これは、鎌倉時代の武士が、儀式や改まった席に身なりを整え臨むという礼法文化が日本人の気質に馴染み風習として今日まで根づいた形だと考えられています。

正しい礼装マナー

礼装は、相手や周囲に敬意を示すのためだと言いました。つまり、誰のためのものかと言えば、冠婚葬祭の場にいる自分以外の人のためにするものです。つまり、おめでとうという祝福の気持ちや故人の死を弔う想いを誠実なものとして表現するためには、礼装が必要ということです。

この点を知らずに、礼服は、「自分をかっこよく、あるいは綺麗に見せるため」と思って気合いを入れて礼装する方や、「別にどう見られようと自分は気にしない、これでいいや」と礼装することを面倒くさがり、礼服以外の服装で式典に出向く方もいます。

繰り返しますが、礼装は、その式典の主役となる方や、周りの方への敬意を示すためのもの。自分主体で考えるものではありません。上記のような想い、または身なりで式典に参加することは望ましくありません。

また、未だに身分制度としての礼装文化気質も消滅しきったわけではありません。

お葬式で喪主は正礼服(正喪服)であるモーニングコートの礼装であるのに対し、参列者は準礼装や略礼装であるブラックスーツの礼装だったり、結婚式で新郎新婦が正礼装の燕尾服やイブニングドレスの礼装であるのに対し、参列者がブラックスーツやディナードレスといった正礼装以外の礼装をしているように、主賓と参列者との間で主賓側が礼装レベルが高くなるのが一般的だとされていますよね。これは、主役を引き立たせる、あるいは主役よりも目立ってはならないという意図があり、ここに当初の身分差を顕にする礼装文化の要素を感じることができます。

結婚式で、花嫁より目立つドレスアップで参列したり、お葬式に、簡単にビジネススーツで参列したりする事は、礼装マナー違反になることがお分りいただけるのではないでしょうか。

主催側であっても同じ

自分たちの結婚式においても同じです。

例えばタキシードは、男性を誠実で大人の男らしくカッコよく演出してくれます。これは、そう見せることが、この結婚に対する自分の誠実な思いの意思表示となっているのです。つまり、結婚式の衣装は、自分好みに襟元をラフにしすぎたり、奇抜な柄を選んだりして自己満足をするためだけのものではありません。新郎も新婦もその点を理解しておく事が大人のマナーとして必要です。

まとめ

文化や風習は、法律のように人の行動を良くも悪くも規制してしまうものです。そのため、礼装に関しても、よくわからないまま従っている方も多くいらっしゃいます。しかし、風習になって受け継がれているのに意味があり、礼装に関しては、特別な行事を特別さを強調し、他人への敬意の表示のためのものであることがわかりました。

今後礼装するときは、晴れの日を迎えた友人やご家族、または旅立たれた個人やそのご家族へ思いを寄せながら行うようにしてみませんか。

また、ちゃんとした礼服を持っていないという方は、これを機に特別感を創出し、相手に誠意を示すことができる場面ごとの礼服を準備しておきませんか。